One-way door
今どこにいて、どこに向かっているのか。言葉にする努力を重ねることで、少なくともその輪郭を掴むことはできる。26歳の僕は4年遅れで大学を卒業し、就職活動もしないまま無職になった。あれから5年が経ち、今は東京でソフトウェアエンジニアとして働いている。創業まもないスタートアップに就職し、いつの間にか古株のメンバーになっていた。生活や精神のあらゆる面で不安定だった僕は、とにかく生き延びるために強くなることを求めていた。変化が救いで、停滞は恐怖だった。
年末に同僚と飲みに行った。二人とも近いうちに結婚を予定しており、そのことが主な話題だった。彼はよく「子どもを作るとUndoできない」と冗談めかして言う。けれど、Undoできる選択なんて本当にあるのだろうか。何気ない選択が一方通行の扉だったことに、僕らは振り返ってはじめて気づく。
人間は究極的には利己的な生き物で、男女もお互いのことをFunctionとして捉えているのだという。そうかもしれない。生成AIが思考の拡張なら、人との出会いは世界の拡張だった。丸の内の百貨店で冗談のつもりでかけてみたスモークブルーのカラーレンズの眼鏡を、彼女はとても似合うと言ってくれた。
Kindleの本棚には技術書やビジネス書ばかりが並んでいる。哲学や文学はあまり読まなくなった。理想主義的で行動の伴わない自分に嫌気が差し、プラグマティズムに傾倒した。そうだとしても、資本主義ゲームに勝ち続けることが人生ではない。目の前の現実に向き合いながら、自分が本当に求めているものを探り、方向を微調整していく。その先には何か特別なものがあると僕はまだ信じている。